誰がために鐘は鳴る

有名なヘミングウェイの小説で、大好きな一冊です。
人生で何度も何度も読み返しました。
ただの恋愛小説ではなく、スペインの内戦という大きな歴史的背景の中で書かれる歴史的文書でもあります。
主人公の経験や立場はそのまま、作者のヘミングウェイが経験したことと似ているため、まるで本当にあったかのような臨場感でもって戦場の中のはかない恋を体験することもできます。
スペイン内戦は1936年7月から1939年4月の期間に勃発。
共和派(農民・労働者・知識人)と保守派(右翼・地主・旧貴族・カトリック教会)の間で起こり、それぞれの後ろ盾として外国が武器や兵士を送るなどの支援をしたために長期化。しかも、内戦が終了した1939年には今度は第二次世界大戦がはじまるというヨーロッパ最悪の時代です。
共和派は、私たちと同じ一般人の知識層。知識を得ると人は「なんで一部の金持ちに支配される人生なのだ?」と疑問に思い立ち上がります。アメリカとソ連も後ろ盾にいるし、読み手としては応援したくなる勢力。
一方で私の感覚での「悪者」の保守派は、後のスペインのフランコ政権(最悪の独裁政治)を生み出します。でも歴史上のスペイン内戦はこっちが勝利…。しかも後ろ盾は当時のドイツとイタリアって…シナリオが最悪ですよね。スペインの内戦ではピカソの「ゲルニカ」という作品の元となったゲルニカの空爆もドイツによって行われています。
とにかく小説がその最悪の世界観の中で始まるので、いきなり被爆して逃げ回る人々が書かれて息もつかない展開です。
主人公は共和派の支援のためにスペインに来たアメリカ人。
ある橋の爆破任務で現地の逃げる人たちの協力を仰ぎます。
そしてヒロイン・マリアはその「現地の逃げる人」の中のメンバー。命からがら逃げまわる人は明日の無事を信じられません。
イケメンアメリカ人と美人の現地人。
あっという間に恋に落ちますが、お互いに「明日死ぬかも」と言うことで、切ない切ないラブストーリーの始まりです。
この本は冒頭いきなり妙な詩で始まります。その詩がこちら。
なんぴとも一島嶼にてはあらず
なんぴともみずからにして全きはなし
人はみな大陸(くが)の一塊(ひとくれ)
本土のひとひら
そのひとひらの土くれを
波の来たりて洗いゆけば
洗われしだけ欧州の土の失せるは
さながらに岬の失せるなり
汝が友どちやなれみずからの荘園の失せるなり
なんぴとのみまかりゆくもこれに似て
みずからを殺(そ)ぐに ひとし
そはわれもまた人類の一部なれば
ゆえに問うなかれ
誰がために鐘は鳴るやと
そは汝(な)がために鳴るなれば
ジョン・ダン
これは16~17世紀にイギリスで活躍した詩人ジョンダンの作品です。
ジョンダンの詩は、「当時の官能小説?」と思えるようなエロティックなものが多いです。女性の衣服を順に脱がしていく詩とか…ウェットに富んだ神父さんの詩人として人気だったみたいです。
地上に存在するすべてのものが、私たちが生きる世界だ。
1人で完璧な世界はなく
人はみな、大いなる大地の一部である。
1人が波に流されて大地の土が失くなるということは、
さながらに一つの岬が失せるようなものであり、
あなたの友人やあなた自身が削り取られるようなものだ。
誰かの死は、自らの死に等しい。
なぜなら私もまた、人類(大地)の一部だからだ。
だから、「これは誰の弔いの鐘なの?」と疑問に思ってはいけない。
弔いの鐘はいつでも、あなたのために鳴っているのだから。
この詩は「主人公の死はあなたの中に生き続ける」という意味にとられがちです。「恋人の弔いの鐘はあなたのために鳴っている」のだと。
けど、私は違うと思うんですよね。
たった一人の死は、自分が属する世界が「欠ける」ことにつながるから、自分が知らない人であっても、誰かの死は自分の損失なんだって言ってるんだと思うんです。
詩の中の「鐘」は死を知らせる弔いの鐘のこと。
鐘が鳴ったら「あなたの世界の一部が欠けたんだよ!」と思えよ!ってことなんです。
つまり、「他国の戦争だからって、関係ないって顔してんじゃないよ!」と言ってるんですね、ヘミングウェイが。
何て偉大な小説家なのだろうと感動しませんか?
今のウクライナやガザ、イランやレバノンに対して無関心でいつづける日本人にとっても、この言葉を届けたい、この小説を読んでほしいと願ってしまします。
戦争は世界のどこでも起こしてはいけない。
それを何度でも教えてくれる一冊です。
- ロバート・ジョーダン…アメリカから来た軍人で、スペイン内乱のゲリラ戦に参加して、橋の爆破をする任務を負う。アメリカではスペイン語を教える大学教授で知識人であった。現地でゲリラ兵たちと合流し、そこで出会ったマリアと束の間の激しい恋に落ちる。
- マリア…19歳のスペイン娘。ファシストに村を襲われ、拉致されたのち凌辱され、ゲリラ兵に救われ行動を共にした。橋の爆破任務で来たアメリカ人のロバート・ジョーダンに恋に落ちる。
- ピラール…共和党のリーダーであるパブロの女で年齢は48歳。パブロが腑抜けになってからは、実質「女リーダー」としてゲリラ兵たちを率いている。不器量な容姿を恥じており、若く美しいマリアに嫉妬もするが、娘のように保護してもいる。
- パブロ…ファシストに対する虐殺を指導した経験がある。ロバートジョーダンが協力を仰ぐゲリラ軍のリーダーであるが、度重なる残虐行為を目の当たりにし、精神が不安定で酒に逃げるようになる。常にチームの不安分子だが、激戦を潜り抜けてきただけあって、戦闘力や生存本能はぴか一。
最後に人物紹介だけ。魅力を感じたら、ぜひポチって見てください。


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