こころ(夏目漱石)感想と考察、ネタバレあり

「令和なのになんて読みやすいんだ!」と感動する夏目漱石の代表作「こころ」。
文学苦手な人でさえ、一気見しちゃうのではないかと言うほど、読みやすいです。
こころは「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の3つの大きな文節に分かれていますが…全編の2つに比べると圧倒的な質量を誇るのは、最後の「先生と遺書」という部分です。
私は女なので「女を壁の花のように描いている」この作品の内容には、当時の時代の女性蔑視が垣間見えすぎて不愉快はあるのですが、作品としてはとても面白い。
なるほど、当時は主人公や「先生」みたいな、仕事せずふらふらして実家や嫁の家に養ってもらって尚、悪びれもなく家事もせず昼から飲み歩いている男性が、男性性と言うだけで優遇されている時代なのか、ふむふむ。
と言う感じです。
こんなごくつぶしに一生を捧げるしかない女性がたくさんいたのも事実だし、
それでもなお敬われていたことに違和感しかない。
現代の価値観で、違う時代のありかたに腹をたてつつも、
夏目作品の中で一番好きなのは「こころ」と言ってもいいくらい、とにかく圧倒的に面白い。
「崇高な文学に対して女性蔑視とかブツブツ言って何なんだよ」と思われるかもしれませんが、
「こころ」は女性蔑視の社会性を理解しないと読み込めない作品でもあります。
作中に「明治天皇の崩御に殉死する」という表現があるので、明治から大正への時代背景ということです。
昭和20年ほどに書かれた太宰治の「ヴィヨンの妻」を読んだ時も、同じような感想を抱いたので、男が如何に「女性」を知らないか、蔑視しているかが、歴史的人気小説でもやっぱり浮き彫りになったな…と思いました。
恋愛がテーマの作品なのに、「先生」が注視しているのは常にライバルの男性であり、女性の気持ちがまるで重要視されていない。
「…この先生の奥さんは、AIなの?ペットなの?」
と勘違いするくらい、奥さんの感情も気持ちも「こころ」もガン無視。
女と言う生き物に、そもそも「こころ」など持ち合わせていないかのようにきれいにスルー――されています。
「女にはどうせ理解できないだろ?」
と言わんばかりに、奥さんは先生の気持ちを打ち明ける相手としての母数にすら入っていない。
女を「人」としてカウントしてないのに、財産はもらい家事全般はやらせる。なんなのよ、ほんとに。
仕事しろよ、と思ってしまいます。
奥さんにはうっすらと「先生の気持ちを理解したい」という思いが垣間見えますが、その母親は完全に家政婦と言う立ち位置から抜け出せない感があるから、やっぱり時代背景なのかなぁ。
ただの独りよがりの根暗男性が自己満足に人生をむさぼった感が否めません。
年の若い主人公に胸の内を伝える「先生」ですが、「このことを奥さんにはばらすな」と念を押されてもいるんです。
「それが自分の妻への思いやりで、自分と同じ悩みの世界に妻を引きずりこみたくない」と言っていて、
男らしいと思っているのかもしれませんが勘違いも甚だしいです。
夫婦でフラットな人間関係ならば、正直にすべてを打ち明けて、支え合い生きられた方が、奥さんは絶対に幸せです。
秘密を持たれたままこころを隠され過ごす結婚生活は、寂しくむなしいものだったと想像できます。
上野千鶴子さんの本で「結婚したら男性は女性を自分の一部として取り込み、いつくしむというが、それは結局自分自身だけを大事にしているに過ぎない」ということが書かれていますが、「こころ」はまさにそう。
奥さんを、そもそも人扱いしていない。
奥さんを大切に愛している描写はあるものの、自分の中に取り込んで美化した奥さんを、つまりは自分自身をかわいいかわいいとしているだけ。
遺書の中には何度か「奥さんから秘密を打ち明けるよう迫られた」とあり、奥さんがとても悩んでいたのだと推測できます。
が、「俺は奥さんの美しさがかげらないために、秘密のままにしているのさ。俺って奥さん想いの優しい男だろ?」というわけです。
物語の最初から最後まで、先生は独りよがりの暇人男性です。
純白さや美貌や心の闇とかどうでもいい。好きな人と秘密や罪・重荷を分かち合えた方が、女は幸せです。
ただ、一点理解しがたかったのは「親友」への思いです。
先生がしのごの言いつつも、結局は親友の死が重く先生にのしかかってるのだということです。
先生のしたことは、割と罪悪感なく、今日も世界でされている程度のことなのに、明治では許しがたい事だったのかもしれませんね。
親友のKも先生も、頭がよくまじめで、親戚に恵まれずに不遇の時代を送っていますが、絶望するほど悲観しているわけではありません。
大学に行けている時点で「勝ち組」に属していたといえるし、こだわらなければ仕事探しも簡単に行きそうです。
そもそも仕事しなくても生きていける環境が用意されている点で、裕福な若者たちと言えます。
Kに関しては財産がなくて悪い境遇のように書かれているものの、それにしても経済的に焦っておらず、やっぱり就職に関してゆったりと構えている感が否めません。
仕事をしなくても生きていける男性たちが、恋愛を中心に自分のこころと向かい合った。
贅沢な物語だったのかもしれませんね。
最後に一つ不可解なのは、「わたし」に対して先生が並々ならぬ内容の手紙を送ってきたこと。
それを受けて、「わたし」がどう変化したか、ということです。
「わたし」とは、「こころ」を読む人すべてに置き換えられ、先生が、あるいは夏目漱石があの世から
「さあ、私の人生を受けて、わたしのこころみて、あなたはどうする?」
と問いかけてきているようです。
お答えします。
「やりがいのある仕事をします!」です。
恋愛は素晴らしいですが、若いうちの一時期だけのものですし、その後の長い人生の生き甲斐は必要ですよね。

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