熱源(川越 宗一)感想・考察

熱源は、樺太や北海道のアイヌ民族を中心とした話し。
162回直木賞受賞作品で、実在の人物が数人出てきます。
時代は1867年ごろから1945年の、第二次世界大戦の終戦時まで。
日本やロシアに翻弄されたサハリンの様子が、臨場感もって描かれています。
よっしゃ、直木賞!気合れて読むぞ!と分厚いペーパーバックに向かい合ったのに、意外とスルスル読み切ることが出来ました。
私が一番好きだったのはロシアの女軍人。
ドイツを占領したときの、同胞のドイツ人女性への暴行を何度も目の当たりにし、体の中の「熱」を消化できずにサハリンへ。
そういえば、ドイツ占領後にロシアは、急に日本へ舵を切って向かって来たのでした。
ドイツ占領したロシア軍の多くも、満州や樺太での「日本攻め」に参加していたんですね。
「同士少女よ敵を撃て(感想ページはこちら)」でも書きましたが、第二次世界大戦時のロシアは世界でも珍しいほど女性兵割合が高かったんです。
女が戦場に出たら、きっとみんな同じ思いをするはず。
広大なユーラシア大陸の西から東へ‥‥クルニコワが自分のうちに閉じ込めた「熱」の正体を知ることが出来て、よかった。
戦争系の話しを読んだ時に、いつも犠牲になる敗戦国の女性の逸話を読むとき、私の中にも同じ「熱」が産まれます。
熱源はおもに樺太(サハリン)を舞台に書かれていますが、登場人物の1人のブロニスワフが世界を股に駆け回るので、ロシアとポーランド国境、バルト三国あたりがちょいちょい登場します。
その当時、ポーランドもまた、独立運動をしていたことも、この本を読んで知りました。
ポーランドの立役者も、歴史上の本物の人物登場ってことで、熱くなりましたね。
ロシアの中でも東の果ての「流刑後」が樺太だったりするので、政治犯などが飛ばされてくるんですw
熱源の時代、日本はどんなだったかも調べてみました。
- 1867年…明治維新の大政奉還(江戸幕府消滅)
- 1867年…坂本龍馬の没年
- 1904年~5年…日露戦争
- 1912年…白瀬のぶが南極大陸に上陸する
- 1914年…大隈重信が2回目の内閣総理大臣となる(大隈さん、熱源に登場します)
- 1914年~18年…第一次世界大戦
- 1912年~1926年…大正時代
- 1931年…満州事変
- 1939年~45年…第二次世界大戦
まさに激動の時代。
ほんのちょっと前まで、侍が刀を持っていたんですね。
ペリー開国からの日本の急成長に、当のペリーもびっくりしたでしょうね。
熱源で描かれている時代には、日本は戦争だらけ…。
軍事国家として破滅の道を進んでいるさなかでした。
日本のどこに住んでいても、激動の人生と思われるこの時代…樺太のアイヌは、ロシアと日本の両側からの侵略で、アイヌの生き方を奪われ続けました。
強国に飲み込まれる最中の民族史は、いつみても胸がぎゅっとなります。
インディアンが不当に土地を奪われていく感じを思い出しました。
そうそう、総理をやっていた大隈重信さんが登場してきます。
作中に出てくる大隈さんは「熱源」という言葉こそつかわないものの、弱肉強食で列強の諸国に食われないために、弱いものを食って強者となることの正当化を、熱意をもって語り掛けます。
そう、やらなければやられてしまう世界なんです。
しかしこれは強者の言い分。
「熱源」の中で敗者であった樺太の住民はこう答えます。
「我々は、弱肉強食の強者と闘うのではなく、【弱肉強食】という摂理と戦う」
「どんな世界でも適応して生きていく。俺たちはアイヌだから。アイヌには【人】という意味があるから。」
激動の時代に大波に飲まれず、自分の真理を見つけ出した2人の男たちが、大隈総理をうならせた名場面です。
社会的影響力など皆無に等しい、普通の人間の答えです。
熱源にはたくさんの民族が登場して、その民族模様がそれぞれで、面白かったです。
狩猟民族のアイヌ、和人と呼ばれた日本人、ドイツを占領して日本に攻め入ったロシア人、革命と独立に揺れていたポーランド人、樺太東部にすんでいたアイヌ民族のような現地民のオロッコ、サハリンに住んでいたロシアの先住民のギリヤーク。
今まで「あの辺の先住民はみんなアイヌ民族」くらいに思っていたから、ギリヤークやオロッコとの違いが小説内で説明されてて、なるほど~と思いました。
私たち日本人だって、アジアに詳しくない人から見ると、中国人と変わらない認識らしいですが、区別はしてほしいと思いますもんね。
(中国批判ではありません)
和人として、私たちの祖先が滅ぼし駆逐してしまった民族の歴史は、我々こそしっかりと見つめるべきだなと考えさせられました。
「自分たち(アイヌ)が何に飲み込まれようとしているのかわからない」と物語の中で語られます。
細々と、強国が決めたルールを守って生き続ける。
様々な理不尽な暴行にも耐える。
アイヌがもともと持っていた狩猟採集や物々交換の民族性は無視され、お金や法律がじわじわと入り込んでくる。
法に詳しくお金を持っている方が「強者」となる、現代と同じです。
納税や社会保険料に苦しんで、強者のルールに振り回される我々と、当時のアイヌは同じ思いを持っているように思えます。
その代わりにもたらされる「文明の恩恵」に価値を見出せない…。
和人のもたらす暮らしはじわじわと見えない糸で首を絞めるように、アイヌを「アイヌ」でなくしていくような、不気味な描写がされています。
同じようにアイヌをわかりやすく書いた作品は、マンガしか思い浮かびませんが「ゴールデンカムイ」「シュマリ」等があります。(タイトルタップでAmazonキンドル画面に飛びます)
これらのマンガでは、ロシアではなく日本人こそアイヌを蹂躙して滅ぼしたのだという目線で書かれています。
わりと読みやすくスルスルっと進められる面白さはあるものの、人物の名前が「ヤヨマネクフ」「クルニコワ」「ブロニスワフ・ピウスツキ」とか、とても覚えにくく、そこが最後まで難問でした…。
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