ソ連兵へ差し出された娘たち(平井美帆)感想・考察・ネタバレあり

パンチのあるタイトルを忘れるくらい、衝撃の大きな作品。しかもノンフィクションという辛さで、読みかけて何度も手が止まりました。
「女である」
それだけで、なんでこんなにも苦しまねばならないのか。
岐阜県の黒川開拓団の史実を真正面からみつめた素晴らしい本でした。
私は氷河期世代の生まれなので、戦争そのものは伝え聞いたものでしかありません。隣国の中国や韓国が日本をよく思っていないことも、何となくで知っていました。
日本はかつて、朝鮮に進軍して中国・ロシアと戦争して、勝利したことがあった。
その報酬として満州という土地を手に入れた歴史があります。
政府は積極的に満州に日本人を送り込んで、統治力を強めようとしたものの、第二次世界大戦に突入して満州に取り残された日本人たちが大勢いたと言います。
民間人は情報を手にしたときすでに敗戦…現地の暴力にさらされながら命からがら日本への帰国を試みました。
けれども立ちはだかる敵国の暴徒、、、
開拓団の男たちは、ロシア兵に守ってもらう代わりに、開拓団の若い女性をロシア兵に差し出すことを決めたのです。
家父長制の社会の中で、どれだけこの決定に女性たちが絶望したか、想像しただけでも内臓がきしむほど、傷みます。
反論しても抵抗しても、男たちの決定は覆らない。
ロシア兵は大喜びだったと描かれています。
そして、求められるままに差し出され続ける娘たち。
敗戦国の女性はどの国でもいつの時代でも同じ目にあいます。
もちろん、勝者であったとき、日本とて例外ではなかったのだと思います。
それでも心ある人間を「差し出す」ことに、日本男児として少しも心が痛まなかったのかと疑問です。
なぜ女性の運命を、「同じ開拓団の男性たちだけ」が決定してしまうのか。
その決定をした男たちは、自身の保身と、自分の家族だけの保身のために、他人の娘を簡単に敵兵に差し出したのです。そのように読み取れました。
心の底から叫びたい。
「この情けないクズどもが!!!若い女を差し出した上に助かったとて、誇りをもって生きて行けるのか?!」
若い娘を差し出した男たちのクズさは、日本に帰国後に本性を発揮します。
実質、「団員全てを守った」はずである若い娘たちは、村の中で徹底的なセカンドレイプの対象。
娘たちを差し出して体を汚した男たちは、更に彼女らを侮蔑して笑いものにして生き延びるのです。
年若の妹を守るために自分を犠牲にした姉に対し「お前はスキものだからな」と、命を助けてもらっておいて、どの口が言えたのでしょうか。
子々孫々、感謝をつないでいってほしいくらいなのに。
これが「ノンフィクション」だから本当に悔しい。
悔しくて涙が出ました。
「ごめんね、ごめんね、そして、ありがとう。あなたたちのおかげで、生き延びた命がたくさんある。ありがとう」
そう伝えたい。
悔しかったでしょうね。怖かったでしょうね。
けれど救いはありました。
差し出された娘たちの中に、たくましく、自分らしく、生き延びた人がいるからです。
素晴らしい生命力、バイタリティ、そしてカッコよさ。
レイプは心の殺人です。
娘たちを殺し続けたのは誰なのでしょうか。
現地の暴徒だけではないはず。
ロシア兵だけではないはず…。
「同士少女よ敵を撃て」を思い出しました。(同士少女よ歴を撃てのレビューはこちらです)
戦争において、「女の本当の敵」は誰なのでしょうか。
戦後、勝戦国の犠牲となった女によって「生かされた人」は、生きている限り彼女たちに足を向けて眠れないほど、感謝してほしいと思ってしまいます。
他人の娘を供物として捧げることでしか生き延びることが出来ない、その不甲斐なさをごまかすために、彼女たちの心まで地に貶めることがないことを心から願います。



感想・レビュー
コメント一覧 (1件)
[…] 以前書いた感想で「ソ連兵に差し出された娘たち」(クリックするとレビューに飛びます)がありましたが、その時も敗戦後の女性の強さを誇らずにいられなかった。女はなんて強いのでしょうか。もちろん、重圧に耐えかねてなくなる命もあります。耐えられない女性だっています。弱弱しく、戦前の暮らしの面影を捨てきれずに、消えていく命の記憶も抱きしめながら、生きていく女性の強さ。それが斜陽の主人公の強さです。 […]